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「子供がペットに見えない迷子ひも」という社会イノベーション


「子供を柱に括りつけて農作業していた」というのも今は昔。
人権意識が高まった昨今では、もちろん虐待事象にあたるのは疑う余地もありません。
とは言っても、「お願いだからじっとして!」「お母さんの言うこと聞いて!」「勝手に行かないで!」と叫びたくなるような、どうしようもない状況があることを、自分自身が子供を持つ身になって初めて、実感としてわかるようにもなりました。

◆手が足りない!!

私の息子は現在3歳半。今ではずいぶん落ち着きましたが1歳半~2歳半位のころはイヤイヤ期というものが激しく、ベビーカーに乗らず、ところ構わず歩きたがりました。
おぼつかない足取りで歩きたがる子供の手をなんとか繋ごうと追いかけながら、片手でベビーカーを押していると、そのうち雨が降ってきて、(手が空いていないので)傘も差せず、「だれか助けて…」と泣きたくなるような気持で交差点を渡った、保育園の降園シーンが頭に浮かびます。

そんな経験を私がしたからなのか、このニュースはなんだか励まされるような、すがすがしい気持ちになって応援したくなるような印象を持ちました。

⇒「子供がペットに見えない『迷子ひも』 試作した大学生が問う、社会の寛容さ」(buzzfeed.com)

◆心の負担という資源

詳細は引用元を参照いただければと思いますが、よちよち歩き期の子供向けの安全対策商品として欧米ではハーネスが主流になっているものの、日本では「子供をヒモで繋ぐなんて、ペットみたい」「親がちゃんと手をつなぐべき」「躾がなってない」などの反応が色濃く、市民権を得ているとは言い難い状況のようです。
かくいう私も、息子が歩きだした1歳当初、飛び出しが不安で、念のためという意識もあって、子供用のハーネスを購入しました。がしかし結局一度も使わず、お蔵入りとなってしまいました。
「とりあえず使わない状態でも何とかなった」 「装着している状態で、突然子供が走りだしたりしたら、それはそれで危なそうだから・・」 という理由もあるものの、やはり心のどこかで「変に目立って、周りに人になんて思われるか心配だ」という気持ちもあったと思います。

この状況を、我々がよく使う【生活目的と生活資源のシーソー】で示すとこんな形です。

「子供を守りたい」という子の安全に対する目的は大きくても、「ペットみたい=親の身勝手だと世間に思われそう」という意識が大きな心の負担となって、利用できない状況です。

◆大学生が世間体に挑んだ

こんな状況を打破すべく、デザイン専攻の大学生(川崎医療福祉大学4年生の影山翔子さん)は、卒業制作として【ペットに見えない迷子ひも】を開発しました。記事では、“宇宙服風”、ひも部分をタコの足に見立てた“ひっぱりだこ”など、ペットの散歩ひものようには見えないデザインを試作しています。

先ほどのシーソーで示すとこんな感じでしょうか。

「ペットみたい」という印象を与えている原因を「(手で引っ張る)ひもっぽさ」と分析し、その「ひもっぽさ」をなくすことで「ペット用のそれとは違うもの」という印象を作り出し、当事者の世間体を気にする心の負担を軽減させています。

◆話題が議論をよぶデザイン

さらに影山さんはこのプロトタイプをTwitterを使って広く公開し意見を募集しました。その結果、当事者であるママたちから強い関心と取り組みに対する支持を集め、TwitterなどSNS上で拡散され記事やニュースになったようです。

この商品は、デザインの好みも分かれるでしょうし、ヒモの柄にあたる部分をママ側の腰につけるという現在の仕様に対して「子供が急に走り出した時に、反応しづらく危険なのではないか」(弊社のママデザイナ)などの意見もあり、さらなる改善が必要な面もあるとは思います。
しかし、話題が議論を呼び、当事者のママたちが自分の意見を言って開発に参加したくなる商品だということは、それだけ商品開発の問題提起(ネタ)として魅力があるものだということを証明していることだと思うのです。

しかもこの商品は、「本来、子供の命を守るということは、何を差し置いても優先すべきことなのに、世間体を気にしてその優先順位が変わりかねない」という日本の(良くも悪くも)和を重んじる文化そのものに一石を投じている点が胸を打ちます。しかもそれを当事者意識はまだないであろう、大学生の女性がやってくれていることに一母親としては感動すら覚えるのです。

◆問題は自分の中にある

子供を育てていると、このような優先順位が変わってしまいそうなシーンがいろいろあります。 まるで親としての”あるべき姿”が決まっていて、そのルールに従わないといけないような社会の強制力ともいうのでしょうか。時代とともに薄れてきたと言われますが、知らず知らず染みついた世間の常識というものに、自分自身ががんじがらめになっていると、はたと気がつくことがあります。

「社会をもっといい方向に」「未来をもっと楽しいものに変えていきたい」という社会イノベーションでは、これまでなんとなく常識だと思っていたことを疑うこと(批判的思考力)や、本当はおかしいと感じていても日常に忙殺されてスルーしていたことを掘り下げる(内省)というアプローチが、問題発見(ネタを見つけること)という気付きを与えてくれるようです。

◆イノベーションのネタはそこかしこに

イノベーションのネタは、特別な場所にあるのではなく、日常生活の中にたくさんある、と再認識させられる素敵な事例でした。影山さんのこのアイデアはまだ商品化されて世に定着しているものではありませんが、この商品化、ひいては「子の安全を最優先するという文化」そのものが社会に定着することを切に願います。


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